記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年05月30日

全頭の無事祈る裏方:高木一成

 今日は競馬界最大のレース・日本ダービーが行われる。レースの興味は皐月賞馬ディープインパクトがどんな勝ち方をするか。穴党には悪いけど、個人的には「強い馬が強い競馬で2冠達成」という競馬の醍醐味(だいごみ)を味わいたい。


 と、同時にやっぱり全馬無事にレースを終えてほしいなと思う。ダービーを最高の舞台で整えてくれたスタッフのためにも。


 27日の朝、ダービーを目前に控えた東京競馬場の芝コースを歩かせてもらった。たまにやるゴルフでも、しっかり刈りそろえられたフェアウエー上は滅多に歩けない僕だが、この日もボールが入ったらなかなか出せなそうなラフをひたすら歩いた。通る馬が多い内側はさすがにボコボコしていたが、ちょっと外めは芝がびっしり。一緒に馬場を回って案内してくれた東京競馬場の矢島輝明馬場造園課長(45)によると「例年になくいい状態。これ以上ない馬場」と力強い声が返ってきた。


 芝には、見栄えはするが暑さに弱い洋芝と、夏は大丈夫だが冬は枯れてしまう野芝の2種類がある。1年を通して緑の芝コースを保つために、この2種類を併用しているが、ダービーはちょうど気温が上がり始める時期。「1番きれいに見せたいダービーのときが、芝の1番難しい時期」と矢島さんは言うが、大雨の開催が少なかったこともあり、今年はファンが喜ぶ状態をキープできた。


 芝がもっとも育つ時期は6月から7月半ば。ダービー、安田記念が終わった瞬間に張り替え、修復作業に入らないと、翌1年間保つ芝を育てることはできない。「来年のダービーの馬場は、今年のダービーが終わった瞬間に勝負が始まる」と矢島さん。馬場を馬に置き換えると、厩舎関係者がよくいう言葉になるのが面白い。やっぱり競馬はダービーを中心に回っている。


 「おそらくディープインパクトはこの辺を通るんじゃないかな」。当日を思い浮かべて話しながら差し掛かった3角すぎ。矢島さんはふと、コース内にある大木、俗にいう大ケヤキに向かっていった。側に奉られている地元武士の井田是政の墓の前で立ち止まると、しばらく手を合わせた。「ここでレース前は出走馬の無事を祈り、レース翌日は無事に開催を終えたお礼を言うんだ」。


 昨年のダービーは、残念ながらレース中の故障で安楽死処分になった馬、重度の骨折をした馬が出た。ローテーションに無理はなかったのか? 厳しいレースをした代償では? 他にも故障の原因は考えられるが「馬場が硬すぎるのでは」という人もいた。何が本当の原因かは誰にも分からないが、それでもケガがあれば、馬場状態は常に指摘の矢面に立つ。そんな思いはもうしたくない。毎朝の馬場チェックにも自然と力が入る。


 「とにかく全馬が無事でいてほしい。何も事故がなく大きなレースが終わるといつもホッとするよ」と矢島さん。ダービーの大舞台。華やかなレースの裏側には、全頭が無事にレースを終えて、はじめて胸をなで下ろす人もいる。

May 30, 2005 12:35 PM