記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年05月04日

功労者は尊重すべき:盧載鎭

 2003年12月2日、鹿島クラブハウス内の一室。何ともいえない重苦しい空気が流れる。鹿島の鈴木満強化部長が、絞り出すような声で切り出した。「申し訳ない。これが今回、クラブが出した結論だから…。のんでくれ」。長年、鹿島の屋台骨を支えてきた功労者DF秋田豊への解雇通告だった。


 「彼はまだトップでできる選手だが、うちのチーム事情でもう雇えない。だからといって、安い年俸を提示するのは失礼に当たる」と同強化部長。04年度から世代交代を図ると決めていたため、秋田がベンチに座る頻度が増えるのは目に見えている。当然、秋田を残してスムーズに世代交代させた方がベストだとは分かっていたが、それではあまりにも功労者に失礼だ。


 「できれば、オレがいるうちに若手がオレを超えてほしかった」と鹿島に愛着がある秋田と、秋田に申し訳ない気持ちでいっぱいの鈴木強化部長。非情通告の場で2人は泣いた。泣き声が部屋の外に漏れていたが、気にしなかった。お互いを信頼していたから、男泣きできた。


 「今はつらいけど、この先、今の判断が正しかったと思える日が必ずくる」。鹿島の牛島洋社長は唇をかんだ。鹿島が年俸0円提示したことで、秋田は名古屋へ移籍金なしで移籍できた。1年かけて若返りに成功した鹿島は現在Jリーグ首位を走り、秋田の経験が加わった名古屋は2位につけている。冷たいと思われた決断が、1年以上の年月を経て最高の形として表れている。


 今回、また長年チームに貢献した功労者が1人チームを去ろうとしている。磐田MF藤田俊哉である。しかし、状況は秋田の時とかなり違う。今季、山本昌邦監督のスタメン構想から外れ、最初はベンチスタートが多かった。主力の負傷で最近は先発復帰しているが、すでに移籍を決意している。4チームからオファーを受け、悩みに悩んで自分のホームページに移籍先として2チームに絞ったことをファンに報告した。


 今までの功績を評価するなら、藤田の意向を尊重するのが筋だろう。磐田サイドが本人の意向を聞いて交渉を進めるチームとは段取りを付け、そうではないチームには丁重に断りを入れるのが普通だと、僕は思う。オファーが届いたのは藤田本人のところではなく、クラブなのだからだ。


 しかし磐田の鈴木政一強化部長は「4チームとも会うべきだ。オファーを出したチームに失礼だ」と一喝し、悩んだ末に出した藤田の結論をあっさり無視してしまった。若手ならともかく、33歳の妻子持ちのベテランで長年黄金期を支えてくれた選手への処遇とはとても思えない。


 結局藤田は、磐田の面目のため、自分の中ではすでに断っているはずの2チームとも会うことにした。お世話になった磐田へ、最後まで仁義を切るためだ。今回の移籍は、藤田だけに限らない。「明日は我が身…」。ほかの選手も当然、注目している。


 功労者への配慮と信頼を見せないクラブを、所属選手たちやサポーターがどう思うか、冷静に考えてみる必要がある。

May 4, 2005 10:42 AM