2005年05月03日
“大人”の窪塚に注目:松田秀彦
取材受付を済ませると、後ろから足音が聞こえた。窪塚洋介(25)が入り口に向かって歩いていた。足取りはしっかりしていたが、表情はこわばっていた。無理もない。昨年6月、自宅マンションの9階から転落するも、奇跡的に一命をとりとめた。長い入院生活とリハビリを経た仕事復帰となる主演映画「同じ月を見ている」の製作発表だった。声を掛けると少し驚いたのか、目を見開いた。「あ、どうも」。落ち着いた表情だったが、大人びたのは顔つきだけではなかった。
6年前から取材をしてきた。数多くの映画賞を獲得した映画「GO」。勢いある若手映画スター不在の中で存在感はまぶしかった。話を聞くといつも、一本気で純粋だと感じた。少し過激に聞こえた主張も「自分もかつてこんなこと思っていたっけ」と共感することもあった。1つ質問すれば自分の考えを分かってもらおうと、延々と言葉をつなぐ。まじめな若者だと思った。屈託もなかった。撮影現場でよく雑談した。役作りも本気で取り組んだ。役をきっちりつかもうと、参考になる本を読みあさり、関係者の話に熱心に耳を傾けた。のめり込むあまり、本や人間の主張をそのまま受け入れてしまうところがあった。純粋で、不器用だった。マスコミとの軋轢(あつれき)も、そんな性格が前面に出た結果だった。
「大麻は環境問題を解決する」と主張して「奇行」と報じられた。有効な活用方法があるとしても、現状ではあまりに“過激”だ。女性週刊誌に「叶姉妹と海外旅行」と報じられると「クソテキトーなマスコミ」と書いたTシャツを着て敵意をむき出しにした。映画界に進出してから窪塚を支え続ける東映の遠藤茂行氏は「とてもピュアな男です。マスコミに対しても、なぜ自分が話したことが正確に伝わらないんだろうと本気で悩んでいました」と言う。
大勢の前に出るとテンションが上がる。おちゃらけた言葉をよく口にした。「窪塚語」と揶揄(やゆ)された。ちょっとした受け狙いから出た物言いだと感じたが、確かに度が過ぎているときもあった。この日の製作発表では、落ち着いた口ぶりが印象的だったのか「窪塚語封印」とも報じられたが、もともときちんと話すことができる若者なので違和感はなかった。そんなことより“大人”として腹をくくったことを感じさせる言葉が印象的だった。
「1%仕事、99%メッセージではなく、99%仕事、1%メッセージにした方が伝わるんだということもよく分かったつもりです」。
誰もが認める仕事をすれば、主張に耳を傾ける人の態度もそれなりになってくる。自分の足元を見直すことができたのだろう。今回の配役についても原作を読んで「純粋でいい人」として描かれている役よりも「腹立たしくて相当むかつくんです」という別のキャラクターを選んだ。遠藤プロデューサーは「悪も善も併せ持つ人間ぽい複雑な役。昔の窪塚君なら選ばなかった。俳優として成長したいと強く願った結果でしょう」。
自分を受け入れさせる圧倒的な強さを身に着ける決意をした窪塚の演技に注目したい。
May 3, 2005 11:22 AM
