記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年04月05日

手の内のタイミング:中山知子

 NHKの橋本元一会長が、海老沢勝二前会長を支えた現在の専務理事8人を全員交代させると、記者会見で発表した。海老沢色を消すには、一番分かりやすいカード。でも、これはあくまでも「最初の1歩」のはずだ。その札を、なぜ2カ月も手にしたままだったのだろう。確かに理事たちの任期は4月まであった。だが、本当は会長になってまず、素早く切るカードだったはず。姿勢が問われていたはずだ。


 強烈なキャラで、何をしても目立っていた海老沢氏から会長を引き継いで2カ月過ぎた。でも橋本氏が何をしたいのか、まだ見えてこない。手の内の見せ方が、下手なんじゃないだろうか。


 そう感じたのは、会見前日の3月31日だ。橋本氏は国会にいた。参議院の総務委員会でNHK予算案審議で、説明に立っていた。


 橋本氏は、ここでも理事の進退に触れ「人心一新にふさわしい刷新といえる体制をつくりたい」と、これまでとかわらぬ表現で交代をほのめかすだけだった。委員会は、NHKが生中継と録画で放送していた。受信料支払いを決めかねている視聴者が見ていたとしたら、意欲が直接伝わるチャンスだった。スッキリしない言い方では、伝わるものも伝わらない。


 今の橋本氏やNHKにとって、視聴者へのアピールは1日でも早い方がいい。翌日発表するなら、この時話してもよかったのに。


 海老沢前体制から「脱却」しているかどうかの意思表明も、あいまいだった。橋本氏には海老沢氏に顧問をいったんお願いして、世間の大ブーイングで撤回したことがある。


 委員会では海老沢氏の「優れた部分、問題の部分」を聞かれて「非常にリーダーシップを発揮して、組織改革で削ぐべきところを削いだ」「7年で1000億円を超える財政圧縮をした」と功の部分だけ答えていた。気遣っているようだった。


 結果的にNHKがたたかれる一因を作った海老沢氏の功績だけを並べては、反発が出るかもしれないとは思わないのだろうか。私的な感情は別にあっても「前はこういうところはダメだったけれど、私はこうしたい」と言ってのけるくらいの意気込みを、みせてほしかった。


 重要なことほど、手の内は明かしたくないものだ。でも今の橋本氏には、重要なことほど次々と明かして、視聴者にアピールする「逆の発想」が必要なのではないだろうか。


 技術系初の会長。橋本氏は、質問に答える前、小学生のように右手をピンとまっすぐあげて発言を求めてから礼儀正しく答えていた。誠実さは伝わってきた。


 「私は前会長と違ってオールマイティーではない。現場の意見をくみ上げ、視聴者の意見を求めながら経営を判断していきたい」と、前体制との違いを、精いっぱい強調していた。


 だが、委員会が終わった後、報道陣が話を聞こうと集まった時には、橋本氏は関係者に囲まれるようにして迎えの車に乗り込んでいった。多くの視聴者に手の内をアピールするチャンスは、いつでも、どこかに転がっているはずなのだが…。

April 5, 2005 11:32 AM