記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年04月30日

ガラス張りの新鮮さ:高木一成

 何年も前の話だが、知事室をガラス張りにした田中康夫長野県知事は、今さらながら変わった人だなと思った。不特定多数の人に「見られる」感覚って、心地よく感じるものなのだろうか?


 今開催からオープンした東京競馬場の新スタンドの話。1つの目玉として「ホースプレビュー」なるものが登場した。JRA初の試みで、これまでファンが直接見ることができなかった検量室エリア(レース前後に騎手が負担重量の確認をしたり、着順確定を待つ所。勝負服の着替えもする)を、ガラス張りの壁越しに間近に見渡すことができるというもの。野球だったらベンチ裏をファンが堂々とのぞけるようなものだ。


 レース後の取材は、検量室前で行う。先週はそこで妙な違和感を感じた。その正体は、以前までは壁だった部分からこちらを見ているたくさんの人の目、目、目…。ガラス越しにズラリと人が集まっており、逆動物園の感覚に陥る。もちろん僕の動きなど、誰も気にしていないのだろうが、こっちは意識してしまう。競馬予想、取材をするに当たり、馬の気持ちが少しでも分かるよう四苦八苦している中、パンダの気持ちが先に分かったような気になった。


 もっとも、もっと意識してしまうのは騎手の方だろう。「正直いい気分はしない」「見せ物じゃない」という声もあった。「競馬そのものを見てほしい」というのが、騎手の多くが思っていること。あまり裏側まで見られることに気持ち悪さがあるのも、何となく分かる。


 だが、ガラスの向こう側に回ってみると、感想が少し変わった。レースが終わり、馬と騎手が引き揚げてくると「来た来た」「あれ武豊かな?」とファンが沸く。首をポンポンとたたくしぐさ、騎手が馬から軽快に降りる姿。僕らは取材で見慣れているが、目の前の出来事を新鮮に感じている人が多かった。直線でズルズル後退した人気馬に乗っていた騎手が、レース後に調教師と話している姿を見て「あれ、馬の脚元がどうとか報告しているのかな」と想像を膨らませている人もいた。家族連れで来ていたあるファンは「これができたんで久々に競馬場に足を運んでみた」と話していた。


 テレビやウイナーズサークルに出てくるのは、当然勝利者ばかり。負けた騎手が悔しそうな表情で引き揚げてくる姿などを見る機会は少ない。多少なりとも騎手の生の表情に触れることができるのは、ファンにとっては大きいサービスではないだろうか。


 騎手会長の柴田善臣騎手は「みんな慣れていないから気にしているだろうけど、おれらは注目され、見られる職業でもあるから。プロ野球選手ももっといろいろ見られてる。ファンが喜ぶんならいいんじゃない」とホースプレビューの感想を話していた。ガラスを隔ててこちらと向こうでは、感じる雰囲気はかなり違う。だけど、レース前の緊張感、レース後の喜怒哀楽はガラス越しでも十分伝わる。今までになかった魅力を少しでもファンが知ってくれるとしたら、新しい目玉スポットは結構面白い場所になりそうだと思った。

April 30, 2005 10:11 AM