記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年04月13日

本物 サンボマスター:松田秀彦

 東京・渋谷。まだ肌寒かった5日夜。駅前のスクランブル交差点を走り抜け、NHK方面へ抜ける公園通りの上り坂を駆け上がった。息が上がってきた。額から汗も流れてきた。鼻水も垂れてきた。女子高校生グループと擦れ違った。夜の渋谷をグレーのスーツ姿でダッシュする30歳過ぎのオッサンは、彼女たちの目にどんな風に映ったか。なんてことも気にせず、坂を上りきった。右手奥にライブハウス「渋谷AX」が見えた。開演時間を過ぎた午後7時10分。汗ばんだ背中にシャツがくっついてきた。


 チケットを受け取った。座って見ることができる2階席。チケットはポケットにしまった。迷わず1階の扉を開けた。フロアはオールスタンディング(立ち見)。熱気を感じるためには、関係者で埋まった2階席から見下ろしても分からない。フロアは人で埋め尽くされていた。ステージは20メートルほど先だった。お笑いコンビ、キャイ~ンの天野ひろゆき似の男が、バタヤンこと田端義夫のように胸元にギターを抱え込み、叫んでいた。


 「あなたがたのおかげで、僕はロックができるわけですよ~っ!」。


 人気上昇中のロックバンド、サンボマスターのステージに初めて出会った瞬間だった。


 2月のある日。「1度見てください。何か感じると思います」。レコード会社の関係者の言葉が気になっていた。会場へ向かう時、自然と駆け足になっていた。


 サンボマスターは、3人編成のロックバンド。ボーカル兼ギターの山口隆(29)は「クラスで一番キモイあいつ」のキャッチコピーでデビューしたこともうなずけるほど、外見はオタク系。背も高くなく小太りでメガネ。それでも山口は言う。


 「革ジャン着てイエ~イっていうロックスターはウソくさい。普通の人間が発狂してしまうという基本がないと説得力がないんです」。


 その言葉通り、ステージは激く、サウンドはハードなロック。ギター演奏も発狂寸前と思えるほどの暴れっぷりだ。生きることのもどかしさや素晴らしさ、喜びや悩みを、英語表現に頼らず、日本語でストレートに伝え、無常観さえ歌う。

その人間くささは、山口自身が影響を認めているように、かつてのフォークソングを連想させる。生きることに不器用そうな男が、虚飾なく懸命に愛を叫びまくる。怒りや衝動を、今すぐ吐き出さなきゃダメなんだと言わんばかりの強引さで歌う。


 若者に混じり、同世代の男性もあちこちに見えた。音楽評論家の田家秀樹氏はサンボマスターを「未来に希望の持てない時代に生きる若者に手を差し伸べる救いの存在」と言った。救いを求めているのは、どうやら若者だけではなかったようだ。観客はみな、ステージに向かって必死に手を伸ばした。もっとオレの代わりに叫んでくれと訴えているようだった。ルックスに頼らない本物感。山口が言う「ウソ臭さ」はない。あこがれとは違う、自分の分身のように感じることができるのだろう。スーツに染みこんできた汗は途中から気にならなくなった。

April 13, 2005 11:21 AM