2005年04月01日
厳格統治が生む興奮:鹿野芳博
ピッチからスタンドを見渡すと、12万人のイランサポーターが歓声と怒号を上げていた。観客のすべてが男性で、女性の姿は見受けられない。イランでは女性のサッカー観戦は禁じられているのだ。
3月25日、サッカーW杯アジア最終予選のイラン対日本が行われたアザディ・スタジアムは、試合開始前から異様な雰囲気に包まれていた。
そのスタジアムの一角に、日本人サポーターがフェンスで仕切られ陣取っていた。日本からチャーター機で来た約790人のサポーターと現地邦人の合わせて約1200人。いつもの応援風景とは違い、完全に圧倒されていた。
日本人の女性サポーターが頭にスカーフを巻いていた。イランは厳格なイスラム教国で、外国人にも服装の規定がある。髪や肌の露出は禁じられている。青いアフロヘアーのカツラを覆った女性もいたが、その上からスカーフはちゃんと巻いていた。イランのテレビ局数社がこの珍しい光景を見て、しきりにインタビューしていた。
女性の肌が露出している写真や髪を覆っていない写真も持ち込めない。入国のとき日本の週刊誌(漫画)をスーツケースに入れていて、空港職員に中身を検閲された。巻頭カラーは松浦亜弥のグラビア写真で、後半には水着のタレントの写真もあった。没収かな? 空港職員はたまたま漫画の部分だけ見て返してくれた。
イランでの制約はこれだけではない。私にとって一番つらかったのは飲酒が固く禁じられてることだった。同じ中東でアラブ首長国連邦(UAE)とオマーンに行ったことがあるが、外資系ホテルのレストランで酒を飲むことはできた。しかし、イランではお酒を見ることすらなかった。「地球の歩き方」で見つけた中華レストランに行き「紹興酒ありますか?」と聞いてみたが、笑われた。結局ノンアルコールビールを飲んだ。
軍関係の施設や空港、駅の写真撮影も禁止されている。写真撮影には気を使った。
ただ、ここまで厳格に国を統治しているのであれば、サッカー観戦マナーも厳格であって欲しかった。
競技場のゴールライン沿いのカメラマンの位置で、撮影した写真を日本に送るため、パソコンを広げ、衛星電話をセットしたとき、りんごやミカン、大きな硬貨、パン、ペットボトルが私めがけて投げ入れられた。近くの広告看板に当たると「ドスッ」とものすごい音がした。ふざけて投げ入れている物のスピードではなかった。同僚の衛星電話にはトマトが直撃し、ベトベトになった。
日本人サポーターにも2階席のイラン人からいろいろなものを投げ込まれ、数人が頭や目にけがを負った。
イランサポーターに至っては死者が出た。勝利に興奮した地元サポーターが競技場の出口に殺到し、5人が死亡、約40人がけがをしたという。
規律と別にある度を超えた興奮。何が原因でこのような事態になったかは、定かではないけれど、「イランの厳格さ」というものを考えさせられる出張だった。
April 1, 2005 12:00 AM
